PROFILE
プロフィール
◾️小林明彦 年表◾️
■1990年9月2日
福島県猪苗代町に生まれる。
白虎隊の魂が眠る土地で産声を上げる。
千円札の野口英世の生家まで自転車で10分という、ちょっとした自慢付きの田舎育ち。
■1998年〜2007年頃
小学2年生から中学3年生まで9年間、クロスカントリースキー部に所属。
一般的な「スキー」のイメージとは違い、山を登り、下り、平地を押して走り、吹雪の中でも汗と鼻水を垂らしながら半袖で走る競技だった。
根性、体力、理不尽な先輩との付き合い方を学ぶ。
全国大会にも出場。
結果はボロ負けだったが、仲間の大切さを知る。
■2003年頃(中学1年生)
美容師という夢に出会う。
猪苗代町に一軒だけあったTSUTAYAで毎日のように雑誌を立ち読みする。
その中で出会ったのが「CHOKi CHOKi」。
東京の美容師たちは、
・スーツを着ない
・髪は自由
・好きなことをして生きている
そんな風に見えた。
オシャレが好きだった少年は、その頃から美容師以外の将来を考えた事がなかった。
(幼稚園時代のウルトラマン、お花屋さん、パン屋さんを除く)
■2006年頃
高校進学。
美容師を目指し、普通高校ではなく商業高校へ進学。
電卓を打つスピードだけは異常に速くなった。
今のところ人生であまり役に立っていない。
そういうものですよね、人生。
■高校時代
オーケストラ部に入部。
理由は新入生歓迎会で見た「つばさ先輩」。
校則が厳しい学校にもかかわらず、
ツーブロックマッシュ
黒縁メガネ
という圧倒的な都会感をまといながらティンパニーを叩く姿に衝撃を受ける。
「都会!!!」
と心の中で叫ぶ。
その後、
・レッドホットチリペッパーズ
・SUM41
・マルジェラ
・アンドゥムルメステール
・アントワープ6
・東京ボッパー
・FRUiTS
など音楽とファッションを教わる。
念願だった「汗と鼻水とは無縁のスマートな高校生活」を手に入れる。
■専門学校時代
渋谷の美容専門学校へ進学。
センター街の居酒屋で朝までアルバイトをしながら学校へ通う。
居酒屋のバイト代でCanonの一眼レフを購入。
写真を撮ることが趣味になる。
今でも髪と人を撮ることが一番好き。
良い写真が撮れた瞬間が、一番テンションが上がる。
■2011年頃
ROSSO入社。
高校時代、好きな髪型を切り抜いて集めていたファイルの中で、一番多く保存していたのがROSSOのスタイルだった。
しかし当時は気づいていなかった。
■2014年頃(24歳)
実家で昔の切り抜きファイルを見返す。
そこで初めて、
「一番好きだった髪型はROSSOが多かった」
という事実に気づく。
運命ってこういうことかもしれないと思う。
■美容師人生
来てくれる人をワクワクさせたい。
いつもと違う自分を見つけてもらいたい。
僕にしかできないデザインではなく、
僕とお客さんの二人だからできるデザインを作りたい。
美容師は一人では完成しない。
お客さんと一緒だから完成する。
できるだけ泥臭くて、人間らしい美容師でいたい。
そんなことを考えながら毎日やってます。
■2025年
カミカリスマ受賞。
■2026年
2年連続カミカリスマ受賞。
嬉しかったけれど、次の日も変わらずお客さんの髪を切っていた。
美容師は賞よりも、その人が鏡を見て少し嬉しくなる瞬間の方が大事だと思っている。
◾️ストーリー◾️
中学生の頃、TSUTAYAが好きだった。
正確に言うと、TSUTAYAの雑誌コーナーが好きだった。
1990年生まれ
福島の猪苗代町には遊ぶ場所がそんなになかった。
だから放課後になると友達とTSUTAYAへ行った。
ゲームを見るやつもいたし、CDを試聴するやつもいた。
僕は雑誌を読んでいた。
チョキチョキという雑誌だった。
今はもうない。
でもあの頃の僕にとっては、ほとんど東京だった。
そこには見たことのない髪型が載っていた。
見たことのない服が載っていた。
見たことのない大人が載っていた。
楽しそうだった。
自由そうだった。
少なくともクロスカントリースキーで鼻水を垂らしながら雪山の坂道を走っている自分よりは、ずっと自由に見えた。
もちろん今ならわかる。
あの人たちだって朝は眠かっただろうし、コンビニでシーチキンおにぎりを買ったり、仕事で怒られたりしていたと思う。
でも当時の僕には輝いて見えた。
そして憧れた。
今思う。
人生って案外、憧れでできている。
たった一人の先輩。
一冊の雑誌。
一枚の写真。
たったそれだけで人生の向きが変わることがある。
雪はもういい。
高校生になった僕は、オーケストラ部に入った。
理由は新入生歓迎会の入場の時、体育館で見たつばさ先輩だった。
ツーブロックで黒縁メガネ。
ティンパニーを叩く姿がやたら格好良かった。
みたことがない人種だと思った。
「都会!!」と思った。
人は面白い。
何に心を動かされるかわからない。
たった数秒の光景で人生が変わる。
だから僕は思う。
誰かの人生を変えるのは、いつだって大きな出来事じゃない。
小さなきっかけだ。
たった一言のあの先輩の言葉だったり。
たった一枚のコナミジロウの写真だったり。
たった一回の大事な仲間との出会いだったりする。
美容師になってからも、その考えは変わらなかった。
むしろ強くなった。
お客さんが鏡を見る。
その瞬間が好きだ。
気に入ってもらえたかなとか。
似合っているかなとか。
もちろんそういう気持ちもある。
でも本当に見ているのはそこじゃない。
表情だ。
人が少しだけ自分を好きになる瞬間がある。
ほんの少しだけ空気が変わる。
それを見逃したくない。
髪を切ることは好きだ。
写真を撮ることも好きだ。
服も好きだ。
でももっと好きなのは、人が自分を好きになる瞬間かもしれない。
自分では気づいていなかった魅力に気づいた時。
新しい服を着た時。
好きな人に会いたくなった時。
髪を切った帰り道。
そんな時、人は少しだけ未来を見る。
僕は妄想が得意だから、美容室帰りのお客さんを想像する
下北沢駅のガラスに映る自分を見たり。
スマホのインカメラを開いたり。
意味もなく前髪を触ったりしている。
あれが好きだ。
たぶん髪型を見ているんじゃない。
未来を見ているんだと思う。
明日久々に会う人とか。
週末の楽しみな予定とか。
帰ったら撮る写真とか。
そんなものを見ている。
僕も新しいスニーカーを買った日はそうだ。
意味もなく近くのセブンイレブンまで歩く。
とくに買うものなんてないから、何か買う理由をこじつける。
歩きたくなる。
新しいスニーカーで。
たぶん人は変わりたいんじゃない。
変わった自分で歩いてみたいんだ。
ほんの少しだけ。
だから髪を切る。
服を買う。
写真を撮る。
好きな曲を探す。
誰かを好きになる。
全部同じことな気がする。
もっと自分になりたいのだ。
変身じゃない。
自分になる。
そっちだ。
僕は髪型を決める前に、その人の暮らしを想像する。
朝は強いのか。
スタイリングする時間はあるのかないのか。
休日は何するのが好きなのか。
最近笑ったのはいつか。
会いたい人はいるのか。
どんな音楽を聴くのか。
どんな服を着るのか。
ちょっと図々しいくらい踏み込んで聞く。
なぜなら髪はその人の人生の一部だからだ。
ヘアスタイルだけが浮いていても意味がない。
明日からの暮らしに馴染んでいてほしい。
でも少しだけ特別であってほしい。
日常にあと五センチの非日常。
そのくらいがちょうどいい。
世界はつまらない。
世界はおもしろい。
僕は昔からそう思っている。
そしてどちらも本当だと思う。
ただ、その答えは世界の中にはない。
いつも自分の中にある。
同じ帰り道でも。
下を向いて歩けばつまらない。
上を向けば面白いことが落ちている。
ローソンのガラスに映った自分が少し気に入れば、その日一日は少しだけいい日になる。
人生は案外、そのくらいで回ってる。
上手に切りたいんじゃない。
もちろん上手には切りたい。
でもそれだけじゃない。
帰り道に、
「ああ、来てよかったな」
と思ってほしい。
だから僕は今日も髪をつくる。
人生を変えるためじゃない。
運命を変えるためでもない。
ただ少しだけ。
その人が自分を好きになるきっかけをつくりたい。
帰り道に遠回りしたくなるような髪。
ファミマのガラスに映る自分を見て、3秒とまってしまうような髪。
それだけで十分だと思う。
人生は劇的には変わらない。
映画みたいなこともそんなに起きない。
でも。
駅ののガラスに映る自分を見て、
少し好きになれる日が増えたら。
それはもう十分すごいことなんじゃないかと思う。
僕はそういうものを作りたい。
髪型なのか。
思い出なのか。
勇気なのか。
よくわからないけれど。
たぶんその全部だ。
そしていつか。
その人が今日の髪型を忘れたあとも。
「なんかあの日、少し前向きだったな」
だけが残ってくれたら嬉しい。
会いたかった人に会いたくなるような髪。
そんなものをつくりたい。
だって僕自身がそうだったから。
たった一冊の雑誌に憧れた。
たった一人の先輩に憧れた。
たった一枚の写真に心を動かされた。
人生はそういうものでできている。
だから次は僕が、誰かの小さなきっかけになれたら嬉しい。
未来は案外、そういうところから始まる気がする。